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2005/07/24 12:00 am
【ルアーフィッシングに於ける戦略性(強引編)】
海のルアーフィッシングが好きである。リールを取付けたロッド(竿)から伸びたライン(糸)の先に、プラスティックやバルサ材、金属等で作られたルアー(疑似餌)を取り付け、力いっぱい水平線に向けてキャストする。そしてリールを廻してラインを巻き取り、ルアーを泳がせる。これを何十回、何百回と繰り返す。
私のメインターゲットはスズキ(鱸)という魚である。刺身や洗いで食することの多い白身のこの魚は、南は九州から本州下北半島迄が生息域と言われ、同じ緯度の中国大陸にも生息する。日本ではルアーフィッシングの人気ターゲットであるこの魚は、欧米等他の地域には生息していない。この魚は成長するにつれて呼名がセイゴ、フッコ、スズキと変わる出世魚でもある。スズキと呼ばれるのは60cm以上であるが、ルアーフィッシングではサイズに関係なくシーバスと呼んでいる。20cmでも80cmでもシーバスには違いないが、釣人が狙っているのは勿論スズキサイズのシーバスである。釣り場では少しでも大きなサイズの獲物を釣り上げた人が偉いのである。
この魚が釣人を虜にするのは、その暴力的なファイトにある。ヒットした瞬間からエラ洗いと呼ばれる強力なヘッドシェイクを繰り返し、縦横無尽に暴れまわり最後迄息が抜けない。丁寧に取り込もうとしても、強引に引き寄せてもルアーのフック(針)が外れバレてしまう。何時間もキャストしてやっとヒットした魚を取込み寸前のエラ洗い一発で逃がしてしまったことも一度や二度では無い。この難しさがこの釣りを魅力的にしている。
1.仮説と検証
この魚を手にする為には、ルアーの巻き取りスピードや泳がせる水深を変えたり、別のルアーに交換したり、様々な志向錯誤を繰り返してその日のヒットパターンを模索する。その日の天気、潮位、水温等の状況を捉え、過去の実績とマッチングさせて最適パターンの仮説を立てる。それを試しては修正し直すことを繰り返す。それでも反応が無い状況が続き、疲労とダルさで頭がボーっとしかけた頃にそれは突然やって来る。ガツンとひったくられるようなアタリがあった瞬間に、体が反射的にロッドを立てて思いっきり合わせを入れている。それからは止まりかけの思考回路が物凄い早さで動き出し、遙彼方で暴れる獲物を取り込む為の確実な方法を考え出す。途中の障害物をどうやって避けるか、ラインが根ズレして切れないか、強引なやり取りで口切れしないか、この時ばかりは過去の経験が物を言う。色々なことを考えながらリールを巻くが、大物がヒットした時にはリールからラインが数十メートルも引出され、巻いては引出されることを繰り返して、何とか近くに寄せる迄に数分を要することも珍しいことでは無い。リールを巻取りグングンと引き込む魚の感触を楽しみながら手元へ取り込む迄は、アドレナリンやドーパミンが噴出す至極の時間である。
2.情報装備
東北では決して魚影が濃いとは言えないこの魚をヒットさせる為に、釣人は様々な努力をしている。様々な情報を元に釣り場所を選択したり(これは殆ど当てにはならないが)、釣り場所の状況(潮位、水温、水深等)によって釣り方や道具を変えたりしている。技術や道具の良し悪し以外に、情報とその状況判断によって釣果が大幅に変わるからである。隣の釣人が入れ食いなのに、自分はアタリすら無いということでさえ良くある話である。ちなみに「雰囲気は良い感じなんだけどねえ」とか、「昨日迄は良かったのに」とか、大抵の釣人は幾つもの言い訳を持っている。
少しでも結果を良くする為に道具にお金をかけるのは、ゴルフやウィンタースポーツ等他の娯楽と同じである。ボロンやチタンのような新素材で出来たロッドや、ベアリングを何十個も使い回転性能を高めたリール、重心移動機構を搭載して飛距離upを図ったルアー等、メーカーから次々と出荷される目新しい道具を、ついつい買い込んでしまう。私の知合いには買い込んだ釣具代で車を買える人が何人もいる。もっとも投資した費用と結果が必ずしも比例しないことは他の娯楽と同様である。
3.アルゴリズム
ルアーフィッシングはその名のとおりルアーを泳がせ、ターゲットの魚が普段捕食している小魚のフリをして誘う釣りである。この為ルアーは泳ぎ方や形状、模様等をイワシやサヨリ等の小魚に似るようにイミテートされている。自然界に生息している小魚等を模範している色合いはナチュラルカラーと呼ばれ、従来からルアーカラーの基本となっている。
スズキは日中は沖合いに居て、夜になると岸辺に近づき餌を捕食する夜行性の魚である。従って港湾や砂浜等から狙う場合は主に夜中が釣行時間帯になる。夜に使うルアーはナチュラルカラーの他に、暗闇でも視界性が良いように白っぽい色や黄色い色の物を使うことがある。このような色合いのものはアピールカラーと呼ばれ、魚からの視界性も良い。釣り場所で小魚が群れているので、それと似た模様のナチュラルカラーのルアーを何度キャストしても全く反応が無い時に、パールホワイトのルアーに交換したら一発でヒットしたということは良くある話である。但し、数多くの釣人に攻められ魚がスレきった場所では、アピールカラーが逆効果になる場合がある。釣人はナチュラルカラーとアピールカラーを状況に合わせて使い分けている。
アピールカラーの中でも一際目を引くのが、ホワイトベースのボディに頭部のみを赤くした「レッドヘッド」と呼ばれているものである。全くルアーの知識が無い人にそれを見せると誰もが「そんな色で釣れるの?」という反応を示す。自然界にはそのような模様の魚は決して存在しない。小魚をイミテートするのがルアーなら、そのような模様のルアーで釣れるはずは無いと言うのである。誰でもそう思うだろうし、私も当初はそう思ってあまりその模様のルアーは使用しなかった。
ところがこれが良く釣れる。私の夜の釣果の半数はレッドヘッドを使用した結果である。赤色の部分が小魚のエラの部分の朱色に見えるからだとか、暗闇ではベースの白だけが見えて実際のサイズより小さく見えるのでスズキが捕食しやすいからだとか、いくつかの諸説があるが、本当のところは判らない。ただルアーローテーションを繰り返していると何故かレッドヘッドだけにスズキが反応することが多いのは事実である。夜だけでなく朝方の明るい時でも釣れてしまうこともあるので、ますます理由は判らない。
4.不確実性と遊戯性
よくルアーフィッシングの何が面白いのかと聞かれるが、そもそもエサでも釣れるスズキという魚を、ルアーで狙うということ自体がゲーム性を高くしている。また、ルアーに食いついてくる魚は活性の高い大物であることが多いということも挙げられる。そして何より面白いのは「運」の占める割合が大きいということである。何十年もその場所に通っている人が釣れてなくても、初めてロッドを振る初心者が釣上げてしまうことがあるのである。その不確実性が釣人を引き付ける。思いどおりにならないから飽きないのである。スズキ釣師の永遠の夢であるメーターオーバーを目指して、シーズンオフの12月迄、週末は寝不足の日々がもう少し続きそうである。
白鳥 健次
海のルアーフィッシングが好きである。リールを取付けたロッド(竿)から伸びたライン(糸)の先に、プラスティックやバルサ材、金属等で作られたルアー(疑似餌)を取り付け、力いっぱい水平線に向けてキャストする。そしてリールを廻してラインを巻き取り、ルアーを泳がせる。これを何十回、何百回と繰り返す。
私のメインターゲットはスズキ(鱸)という魚である。刺身や洗いで食することの多い白身のこの魚は、南は九州から本州下北半島迄が生息域と言われ、同じ緯度の中国大陸にも生息する。日本ではルアーフィッシングの人気ターゲットであるこの魚は、欧米等他の地域には生息していない。この魚は成長するにつれて呼名がセイゴ、フッコ、スズキと変わる出世魚でもある。スズキと呼ばれるのは60cm以上であるが、ルアーフィッシングではサイズに関係なくシーバスと呼んでいる。20cmでも80cmでもシーバスには違いないが、釣人が狙っているのは勿論スズキサイズのシーバスである。釣り場では少しでも大きなサイズの獲物を釣り上げた人が偉いのである。
この魚が釣人を虜にするのは、その暴力的なファイトにある。ヒットした瞬間からエラ洗いと呼ばれる強力なヘッドシェイクを繰り返し、縦横無尽に暴れまわり最後迄息が抜けない。丁寧に取り込もうとしても、強引に引き寄せてもルアーのフック(針)が外れバレてしまう。何時間もキャストしてやっとヒットした魚を取込み寸前のエラ洗い一発で逃がしてしまったことも一度や二度では無い。この難しさがこの釣りを魅力的にしている。
1.仮説と検証
この魚を手にする為には、ルアーの巻き取りスピードや泳がせる水深を変えたり、別のルアーに交換したり、様々な志向錯誤を繰り返してその日のヒットパターンを模索する。その日の天気、潮位、水温等の状況を捉え、過去の実績とマッチングさせて最適パターンの仮説を立てる。それを試しては修正し直すことを繰り返す。それでも反応が無い状況が続き、疲労とダルさで頭がボーっとしかけた頃にそれは突然やって来る。ガツンとひったくられるようなアタリがあった瞬間に、体が反射的にロッドを立てて思いっきり合わせを入れている。それからは止まりかけの思考回路が物凄い早さで動き出し、遙彼方で暴れる獲物を取り込む為の確実な方法を考え出す。途中の障害物をどうやって避けるか、ラインが根ズレして切れないか、強引なやり取りで口切れしないか、この時ばかりは過去の経験が物を言う。色々なことを考えながらリールを巻くが、大物がヒットした時にはリールからラインが数十メートルも引出され、巻いては引出されることを繰り返して、何とか近くに寄せる迄に数分を要することも珍しいことでは無い。リールを巻取りグングンと引き込む魚の感触を楽しみながら手元へ取り込む迄は、アドレナリンやドーパミンが噴出す至極の時間である。
2.情報装備
東北では決して魚影が濃いとは言えないこの魚をヒットさせる為に、釣人は様々な努力をしている。様々な情報を元に釣り場所を選択したり(これは殆ど当てにはならないが)、釣り場所の状況(潮位、水温、水深等)によって釣り方や道具を変えたりしている。技術や道具の良し悪し以外に、情報とその状況判断によって釣果が大幅に変わるからである。隣の釣人が入れ食いなのに、自分はアタリすら無いということでさえ良くある話である。ちなみに「雰囲気は良い感じなんだけどねえ」とか、「昨日迄は良かったのに」とか、大抵の釣人は幾つもの言い訳を持っている。
少しでも結果を良くする為に道具にお金をかけるのは、ゴルフやウィンタースポーツ等他の娯楽と同じである。ボロンやチタンのような新素材で出来たロッドや、ベアリングを何十個も使い回転性能を高めたリール、重心移動機構を搭載して飛距離upを図ったルアー等、メーカーから次々と出荷される目新しい道具を、ついつい買い込んでしまう。私の知合いには買い込んだ釣具代で車を買える人が何人もいる。もっとも投資した費用と結果が必ずしも比例しないことは他の娯楽と同様である。
3.アルゴリズム
ルアーフィッシングはその名のとおりルアーを泳がせ、ターゲットの魚が普段捕食している小魚のフリをして誘う釣りである。この為ルアーは泳ぎ方や形状、模様等をイワシやサヨリ等の小魚に似るようにイミテートされている。自然界に生息している小魚等を模範している色合いはナチュラルカラーと呼ばれ、従来からルアーカラーの基本となっている。
スズキは日中は沖合いに居て、夜になると岸辺に近づき餌を捕食する夜行性の魚である。従って港湾や砂浜等から狙う場合は主に夜中が釣行時間帯になる。夜に使うルアーはナチュラルカラーの他に、暗闇でも視界性が良いように白っぽい色や黄色い色の物を使うことがある。このような色合いのものはアピールカラーと呼ばれ、魚からの視界性も良い。釣り場所で小魚が群れているので、それと似た模様のナチュラルカラーのルアーを何度キャストしても全く反応が無い時に、パールホワイトのルアーに交換したら一発でヒットしたということは良くある話である。但し、数多くの釣人に攻められ魚がスレきった場所では、アピールカラーが逆効果になる場合がある。釣人はナチュラルカラーとアピールカラーを状況に合わせて使い分けている。
アピールカラーの中でも一際目を引くのが、ホワイトベースのボディに頭部のみを赤くした「レッドヘッド」と呼ばれているものである。全くルアーの知識が無い人にそれを見せると誰もが「そんな色で釣れるの?」という反応を示す。自然界にはそのような模様の魚は決して存在しない。小魚をイミテートするのがルアーなら、そのような模様のルアーで釣れるはずは無いと言うのである。誰でもそう思うだろうし、私も当初はそう思ってあまりその模様のルアーは使用しなかった。
ところがこれが良く釣れる。私の夜の釣果の半数はレッドヘッドを使用した結果である。赤色の部分が小魚のエラの部分の朱色に見えるからだとか、暗闇ではベースの白だけが見えて実際のサイズより小さく見えるのでスズキが捕食しやすいからだとか、いくつかの諸説があるが、本当のところは判らない。ただルアーローテーションを繰り返していると何故かレッドヘッドだけにスズキが反応することが多いのは事実である。夜だけでなく朝方の明るい時でも釣れてしまうこともあるので、ますます理由は判らない。
4.不確実性と遊戯性
よくルアーフィッシングの何が面白いのかと聞かれるが、そもそもエサでも釣れるスズキという魚を、ルアーで狙うということ自体がゲーム性を高くしている。また、ルアーに食いついてくる魚は活性の高い大物であることが多いということも挙げられる。そして何より面白いのは「運」の占める割合が大きいということである。何十年もその場所に通っている人が釣れてなくても、初めてロッドを振る初心者が釣上げてしまうことがあるのである。その不確実性が釣人を引き付ける。思いどおりにならないから飽きないのである。スズキ釣師の永遠の夢であるメーターオーバーを目指して、シーズンオフの12月迄、週末は寝不足の日々がもう少し続きそうである。