- 2005/08のエントリ
ヘッダーナビゲーション
2005/08/12 12:00 am
【優れた会社になるためにITは役立つか?】
多くの企業の業績アップに実績のある友人のコンサルタントが常々言っています。「優れた会社(企業)を作るのに大切なのは理想や志に基づいた経営理念であり、その価値を従業員やお客様と共有することである」と。その実例としてあげられたいくつかの企業(大会社ではありません。地方の中堅会社で、その地域で圧倒的な人気商品を販売していたり、多くのお客様に愛されていたりする会社です)は、経営者の信念が従業員に浸透し、初めて訪れたお客様が感動するようなサービスを提供しています。当然ながら業績も良く、同業他社からベンチマーキングの対象にされたりもしています。その業績の秘密にはどこにもITの文字はなく、地域の会社にとってITの導入は成功とは無関係ではないかと思えるほどです。そんな疑問を抱きながら聴講した日本経営品質賞の受賞企業報告会の中で、面白い話を聴きましたので、紹介したいと思います。
日本経営品質賞とは、「卓越した経営」を目指した経営の変革を支援するため、1995年に創設された表彰制度で、単に優れた企業を表彰するだけでなく「経営品質向上プログラム」に基づいた企業・組織の成長と革新を促すことを目的としています。大企業だけでなく、中小企業も表彰の対象となっています。「卓越した経営」とは、組織の理想とする姿を目指した経営革新の実践と学習を重ねることで、世界に通用するトップレベルの顧客価値、社員価値、財務価値の成果を生み続ける経営を言います。先の友人のコンサルタントの言葉で言えば、「百年続く企業であるための経営」ということになります。経営品質は経営に関する方法や展開の7つの領域と業績(財務的なものだけでなく、社員満足や顧客満足も含まれます)で評価されます。逆に言えば、この7つの領域に着目して経営活動の質を高めて行けば、経営品質が向上するとも言えます。7つの領域とは、
(1)経営幹部のリーダーシップ
(2)経営における社会的責任
(3)顧客・市場の理解と対応
(4)戦略の策定と展開
(5)個人と組織の能力向上
(6)顧客価値創造のプロセス
(7)情報マネジメント
です。私達ITコーディネータが活躍する場が(7)情報マネジメントとして含まれています。
さて、日本経営品質賞の受賞企業報告会の中で聴いた面白い話とは、2002年度の受賞企業「ネッツトヨタ南国(株)(受賞当時はトヨタビスタ高知(株))」の話です。ネッツトヨタ南国(株)は受賞当時、高知に1店舗だけのショウルーム兼整備工場を構えるトヨタ系の自動車販売会社で、100人足らずの従業員ながら、全国308社のトヨタ系販売会社の中でお客様満足度(CS)連続日本一を達成している会社です。その社長:横田英毅氏は創業当時から25年間、実質的な経営者であり続けている方で、経営者というよりは学者といったイメージの柔らかい語り口が印象的な方です。ネッツトヨタ南国(株)の事業形態は訪問販売を一切しないというところに特徴があり、そのためお客様が自然に来訪していただける店作りをしなければならないということで顧客満足の向上を目指すのは当然と私は考えていました。ところが、横田社長はCSではなく従業員満足(ES)を第一優先にしていると公言しており、それがなぜCS日本一に結びつくのか不思議な感じがします。実は、ネッツトヨタ南国(株)の創業当時は、自動車の販売員は訪問販売による販売台数のノルマなどの厳しさから成り手が少なく、従業員を確保するため、訪問販売はせず従業員満足を第一優先にするという経営判断が自然にできたようです。しかし、そこからCS連続日本一の企業を創るところが横田社長の卓越した手腕で、横田社長は徹底して従業員自らが考えて行動する文化を創り続けて来ました。横田社長のリーダーシップは、社長がカリスマ的に指示を出したり率先垂範したりするのではなく、300にもなる地道な施策を20年以上継続することによって、社員が問題の本質を自分達で発見し自分達で解決できるような文化を育む人創りにあったようです。日本経営品質賞の受賞式や報告会でも、他の受賞企業はCS推進室長や経営企画本部長などが登場するのに、ネッツトヨタ南国(株)だけは、入社4、5年目の接客係りの女性や整備エンジニアが登場して目を輝かせて話をしており、聴いていて感動を覚える程でした。指示されたのではなく、従業員が自らお客様を大切にしたいと思い、その結果がCS日本一と業績の継続的な向上に繋がっているようです。横田社長は「自分は今や社内では霞です」と笑っておられました。
ここまでの話で、ITは一切出てきません。やはり優れた企業を創るのは経営理念と社員の育成か、というところで思いがけずITの話が出てきて驚きました。ネッツトヨタ南国(株)では、店舗に来たお客さまに即座に適切な対応をするために、声掛けボードという仕掛けを工夫していたそうです。これは、来訪予定のお客様の情報を予め掲示板に貼っておき、接客係りの誰でもがお客様の来訪と同時にお客様の名前を呼んで親しみを込めた対応ができるようにするためのものです。お客様は担当セールスマンでもない接客係りからも自分のことを理解してもらっているという満足感を味わいます。ところがCS日本一の評判でお客様が増えボードに貼ってあるお客様の情報も増えるに従い、接客係りがボードから情報を読み取るのに時間がかかりお客さまを入り口で待たせるケースが出てきたそうです。それに気づいた接客係り達の提案で、その解決策としてITシステムの利用が決まりました。それはNICO!(Netz-Nangoku Impressive Communication Organizer)というシステムで、店外スタッフが近づいて来る車のナンバーをトランシーバーで連絡し、接客係りが店内で顧客情報を検索し、お客様が入り口にたどりつく頃には顧客情報が入手できているという、一種のCRM(Customer Relationship Management)システムです。気をつけたいのは、CSを改善する手段としてIT(CRMシステム)を導入したのではなく、CSの追及がITの利用にたどりついた、いわば必然的な帰結だったということです。
よく言われるように、ITは経営のための単なる道具です。道具を導入したからといって急に経営が良くなるわけではなく、道具を使って何をしたいのか、どのような経営を行おうとしているのかが大切だと思います。その理念と実現策が明確であれば、必然的にどのようなITシステムを導入すれば良いのか見えてくるのではないでしょうか。私達ITコーディネータは、それをいっしょに考える役割を担っていると思います。
庄司 貞雄
多くの企業の業績アップに実績のある友人のコンサルタントが常々言っています。「優れた会社(企業)を作るのに大切なのは理想や志に基づいた経営理念であり、その価値を従業員やお客様と共有することである」と。その実例としてあげられたいくつかの企業(大会社ではありません。地方の中堅会社で、その地域で圧倒的な人気商品を販売していたり、多くのお客様に愛されていたりする会社です)は、経営者の信念が従業員に浸透し、初めて訪れたお客様が感動するようなサービスを提供しています。当然ながら業績も良く、同業他社からベンチマーキングの対象にされたりもしています。その業績の秘密にはどこにもITの文字はなく、地域の会社にとってITの導入は成功とは無関係ではないかと思えるほどです。そんな疑問を抱きながら聴講した日本経営品質賞の受賞企業報告会の中で、面白い話を聴きましたので、紹介したいと思います。
日本経営品質賞とは、「卓越した経営」を目指した経営の変革を支援するため、1995年に創設された表彰制度で、単に優れた企業を表彰するだけでなく「経営品質向上プログラム」に基づいた企業・組織の成長と革新を促すことを目的としています。大企業だけでなく、中小企業も表彰の対象となっています。「卓越した経営」とは、組織の理想とする姿を目指した経営革新の実践と学習を重ねることで、世界に通用するトップレベルの顧客価値、社員価値、財務価値の成果を生み続ける経営を言います。先の友人のコンサルタントの言葉で言えば、「百年続く企業であるための経営」ということになります。経営品質は経営に関する方法や展開の7つの領域と業績(財務的なものだけでなく、社員満足や顧客満足も含まれます)で評価されます。逆に言えば、この7つの領域に着目して経営活動の質を高めて行けば、経営品質が向上するとも言えます。7つの領域とは、
(1)経営幹部のリーダーシップ
(2)経営における社会的責任
(3)顧客・市場の理解と対応
(4)戦略の策定と展開
(5)個人と組織の能力向上
(6)顧客価値創造のプロセス
(7)情報マネジメント
です。私達ITコーディネータが活躍する場が(7)情報マネジメントとして含まれています。
さて、日本経営品質賞の受賞企業報告会の中で聴いた面白い話とは、2002年度の受賞企業「ネッツトヨタ南国(株)(受賞当時はトヨタビスタ高知(株))」の話です。ネッツトヨタ南国(株)は受賞当時、高知に1店舗だけのショウルーム兼整備工場を構えるトヨタ系の自動車販売会社で、100人足らずの従業員ながら、全国308社のトヨタ系販売会社の中でお客様満足度(CS)連続日本一を達成している会社です。その社長:横田英毅氏は創業当時から25年間、実質的な経営者であり続けている方で、経営者というよりは学者といったイメージの柔らかい語り口が印象的な方です。ネッツトヨタ南国(株)の事業形態は訪問販売を一切しないというところに特徴があり、そのためお客様が自然に来訪していただける店作りをしなければならないということで顧客満足の向上を目指すのは当然と私は考えていました。ところが、横田社長はCSではなく従業員満足(ES)を第一優先にしていると公言しており、それがなぜCS日本一に結びつくのか不思議な感じがします。実は、ネッツトヨタ南国(株)の創業当時は、自動車の販売員は訪問販売による販売台数のノルマなどの厳しさから成り手が少なく、従業員を確保するため、訪問販売はせず従業員満足を第一優先にするという経営判断が自然にできたようです。しかし、そこからCS連続日本一の企業を創るところが横田社長の卓越した手腕で、横田社長は徹底して従業員自らが考えて行動する文化を創り続けて来ました。横田社長のリーダーシップは、社長がカリスマ的に指示を出したり率先垂範したりするのではなく、300にもなる地道な施策を20年以上継続することによって、社員が問題の本質を自分達で発見し自分達で解決できるような文化を育む人創りにあったようです。日本経営品質賞の受賞式や報告会でも、他の受賞企業はCS推進室長や経営企画本部長などが登場するのに、ネッツトヨタ南国(株)だけは、入社4、5年目の接客係りの女性や整備エンジニアが登場して目を輝かせて話をしており、聴いていて感動を覚える程でした。指示されたのではなく、従業員が自らお客様を大切にしたいと思い、その結果がCS日本一と業績の継続的な向上に繋がっているようです。横田社長は「自分は今や社内では霞です」と笑っておられました。
ここまでの話で、ITは一切出てきません。やはり優れた企業を創るのは経営理念と社員の育成か、というところで思いがけずITの話が出てきて驚きました。ネッツトヨタ南国(株)では、店舗に来たお客さまに即座に適切な対応をするために、声掛けボードという仕掛けを工夫していたそうです。これは、来訪予定のお客様の情報を予め掲示板に貼っておき、接客係りの誰でもがお客様の来訪と同時にお客様の名前を呼んで親しみを込めた対応ができるようにするためのものです。お客様は担当セールスマンでもない接客係りからも自分のことを理解してもらっているという満足感を味わいます。ところがCS日本一の評判でお客様が増えボードに貼ってあるお客様の情報も増えるに従い、接客係りがボードから情報を読み取るのに時間がかかりお客さまを入り口で待たせるケースが出てきたそうです。それに気づいた接客係り達の提案で、その解決策としてITシステムの利用が決まりました。それはNICO!(Netz-Nangoku Impressive Communication Organizer)というシステムで、店外スタッフが近づいて来る車のナンバーをトランシーバーで連絡し、接客係りが店内で顧客情報を検索し、お客様が入り口にたどりつく頃には顧客情報が入手できているという、一種のCRM(Customer Relationship Management)システムです。気をつけたいのは、CSを改善する手段としてIT(CRMシステム)を導入したのではなく、CSの追及がITの利用にたどりついた、いわば必然的な帰結だったということです。
よく言われるように、ITは経営のための単なる道具です。道具を導入したからといって急に経営が良くなるわけではなく、道具を使って何をしたいのか、どのような経営を行おうとしているのかが大切だと思います。その理念と実現策が明確であれば、必然的にどのようなITシステムを導入すれば良いのか見えてくるのではないでしょうか。私達ITコーディネータは、それをいっしょに考える役割を担っていると思います。